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2010年2月アーカイブ

(話題の広場より)

人工股関節置換術については、テレビや新聞、インターネットや市民健康講座などを通してその情報を得る機会が多くなりましたが、人工関節の「再置換術」についてはまだまだ情報が少ないようです。 そこで、今回は『人工股関節の再置換術』について、大阪大学医学系研究科教授の菅野伸彦先生、同研究科助教の坂井孝司先生にお話を伺いました。


1.はじめに


外来で診察していると、患者さんから再置換術について、「歩けなくなるのでは?」とか「どんな場合に必要になるの?」とか「手術も大変で命に関わるの?」とか「何ヶ月も入院しないといけないの?」といった質問がよくあります。このように、多くの患者さんが再置換術に対して大きな不安を抱えていることと思います。
しかし、実際には再置換術をしたからといって歩けなくなったり車椅子の生活になったりということはありません。再置換術後にお遍路や屋久島のトレッキングに行かれた方もいるくらいです。

2.人工股関節の再置換術の実際


再置換術は大きく分けて2つあります。1つは、人工股関節の部品交換のみを行う方法です。これは、直接骨に接触していない部分、つまり骨頭の部分だけとかポリエチレンの部分だけを交換する手術です。もう1つは、臼蓋側のカップや大腿骨のステムなど、骨に設置された部品を入れ換える手術です。


1.部品交換のみの場合

骨に設置している臼蓋側のカップや大腿骨のステムはそのままにして、ライナー(インサート)や骨頭、ネック(ステムの首の部分)などを外して交換します。手術時間も短く出血も少なく、入院期間も1?2週間程度ですみます。初回の手術で入院期間が平均2?3週間ですから、それよりも早く退院できることになります。

2.臼蓋側のカップや大腿骨側のステムを交換する場合

人工関節と骨の状態によって、臼蓋側だけを手術する場合と大腿骨側だけを手術する場合、あるいは臼蓋側と大腿骨の両方を手術する場合があります。設置されている人工関節を取り除いて新たに人工関節を設置するために、部品交換のみの場合よりも手術時間も長くなり、患者さんへの負担は大きくなりますが、骨の欠損がそれほど大きくなければ、手術は最初の手術と同じです。ただし、骨の欠損が大きい場合や骨が薄くなっている場合には、骨の移植や補強が必要になります。大腿骨側では、長いステムに入れ替えたり、骨盤側では金属プレートなどで補強したりする場合もあります。
骨を移植するなど複雑な手術の場合は、荷重(手術した足に体重かけること)できるようになるまで、術後3?4週間で部分荷重(杖などを使用して全体重をかけないようにすること)、術後6?8週間で全荷重(全体重をかけること)となり、入院期間も8?10週間くらいかかります。
しかし、最近ではこのような複雑な手術は我々の施設では減ってきています。なぜなら、昔と比較して、再置換しやすいデザインのものを使用するようになったことと、再置換の場合は患者さんの骨がいたまない(溶けてなくならない)うちに早め早めに手術を行うからです。

3.どのような場合に再置換術を行うのか

そもそも初回の手術で入れた人工関節はどのくらい長持ちするのでしょうか。大阪大学では、1997年から1990年の手術では20年後で約90%の方が再置換せずに生活されているというデータがあります。また、最近では人工関節自体も改良されて、当時のものより長持ちするようになってきています。


再置換が必要になるのは、人工関節がゆるんでしまったり摩り減ったり(摩耗(まもう))、摩耗によって患者さん自身の骨が溶けてしまったり(骨溶解(こつようかい))、人工関節が壊れたりした場合や、手術部位が細菌感染を起こしたり、脱臼を繰り返し繰りたり、転倒などによって人工関節の周辺の骨が折れたりした場合ですが、何よりも股関節に強い痛みが出てきた場合は再置換の適応となります。
ただし、痛みがなくても検査で異常を認めた場合には、早めに再置換を勧めることがあります。先ほども説明しましたが、患者さんの骨がいたむ前に、複雑な手術になる前に、一部の部品交換で済むのであればそれに越したことはないと思います。

人工関節の寿命
1. ゆるみ
2. 摩耗、骨溶解
3. 人工関節の破損
4. 感染
5. 脱臼
6. 骨折

人工股関節の再置換術では、初回の手術の時よりも年齢が高くなっているわけですが、全身の状態が安定していれば高齢でも手術を行うことができます。
また、回数の制限はありません。何度でも手術をすることはできます。ただし、回数を重ねれば、筋肉のダメージはそれなりに出てくることもありますし、動作の制限が必要になる場合もあります。

4.感染予防と骨折予防


人工関節を長持ちさせるために、患者さん自身でできることがあります。それは感染予防と骨折予防です。
感染を起こす確率は、一般的に0.1?0.3%といわれています。予防のためには手術した部分に傷を作らないようにすることが大切です。ちなみに、むし歯になっても心配しすぎなくて大丈夫です。むし歯の原因となる菌は、手術部位に炎症を起こす菌とは種類が違うので普通の免疫力(抵抗力)のあるひとは、人工関節部分まで移動してくることはありません。また、ウィルスも問題ありませんのでインフルエンザにかかっても大丈夫です。水虫も全身にひろがることは少ないのですが、歯も(口)、手足も清潔にするに越したことはありません。糖尿病などで、抵抗力が弱くなれば感染しやすくなるので、運動をすることが重要です。

骨折の予防としては、第一に転ばないこと、そして、骨粗しょう症にならないようにすることです。適度な運動による転倒しにくい筋力と日光浴を行い、食事に気をつけましょう。

5.最後に


骨の欠損が大きくて、骨を移植しなければならないような特殊な場合を除いては、筋力があって骨がしっかりしていれば再置換も初回の手術もなんら変わりありません。ですので、必要以上に再置換術を恐れることはありません。なお、再置換術後の人工関節の寿命は、大阪大学では10?15年で約80%の方が問題なく過ごされています。
大切なことは、定期的に股関節の専門医を受診して、股関節の状態をチェックすることです。そうすることで、骨がいたむ前に、より負担の少ない手術で再置換を行うことが可能になるのです。

協力:

大阪大学医学系研究科運動器工学治療学教授 菅野 伸彦 先生

大阪大学医学系研究科器官制御外科学助教 坂井 孝司 先生

大阪大学医学部整形外科学教室(股関節クリニック)

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初回の人工関節置換にも言えることですが、人工関節の再置換も、人任せ(医師任せ)ではなく、筋力維持、骨の健康維持など普段から自分自身で努力して行くことは非常に大切なことなのだと再認識です。

むやみに入れ替えを怖がるのではなく、よりベストな状態で再置換が受けられるような体作りをがんばっていかなければいけませんね?

千葉県済生会習志野病院 2010.01.22zakzakより


. 高齢化社会に伴い股関節やひざ関節などの関節痛に悩む人が増えている。そんな関節障害に対して、独自の日本人向け人工関節を考案し、国内外に名をはせているのが千葉県済生会習志野病院千葉関節外科センターだ。

 「日本人は、股関節が浅く大たい骨がねじれているなど、世界の中でも珍しい骨格の特徴があります。そのため、従来のように諸外国で作られた人工関節を用いると、合わないことが多い。日本人に合った治療を行うために、人工関節の開発が不可欠だったのです」とは、同センター長を兼務する原田義忠副院長。

 ハーバード大学に留学中、人工関節の研究をしながら日本との違いを痛感した。そこで、帰国後、千葉大医学部准教授時代の1997年から、東京医科歯科大学や大阪大学、ヒューストン大の工学博士とのプロジェクトを発足し、日本人向けの人工関節を作り上げたという。すでに厚労省の承認も取り、臨床現場で幅広く活用されている。そして、今も次世代の人工関節をプロジェクトで考案中だ。

 「畳や正座といった日本人の生活様式で、人工関節を違和感なく使えるようにしています。日本人の医師と海外の工学博士がタッグを組んだのは初めてのこと。患者さんのQOL(生活の質)の向上をさらに上げることができるでしょう」

 こう話す原田副院長は、人工関節だけにこだわっているわけではない。関節鏡による治療や骨切り術による関節温存術も積極的に行い、その治療にも定評がある。

 「患者さんへのオーダーメード医療を心がけています。関節の故障は、高齢者の方ばかりではありません。若い方でも骨格の歪みやスポーツなどの影響、リウマチ疾患で関節を痛めます。患者さんとは長いおつき合いになりますが、私一人で患者さんを一生涯診ることはできません。そのため後輩の育成にも力を入れています」(原田副院長)

 股関節の治療は、一つ間違えると患者がうまく歩けなくなるなど、大きな支障を及ぼす。それを避けるには、外科医の手腕が問われる。原田副院長は、積極的に後輩の指導をすることで技術レベルの向上を図っているのだ。また、原田副院長の専門は股関節だが、千葉関節外科センターには、肩・上肢、下肢、スポーツグループのそれぞれ専門医がいるという。

 「次世代の医師へタスキを渡すために、もっと人材育成を強化したいと思っています。そして、世界トップレベルの技術を維持したい」(原田副院長)


※?※?※?

日本人向けの人工関節と、従来のもの、入れられたほうはどういう違いを感じるんでしょうか?
両方入れたことのある人にしかわからないコトですよね