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2011年9月アーカイブ

下肢荷重検査における全人工股関節置換術前後の検討
?対側股関節の病期の違いについて?
  正田 直之, 野形 亮介, 花木 このみ, 溝口 佳奈, 大森 弘則
   大森整形外科リウマチ科リハビリテーション部

【目的】
変形性股関節症に対して全人工股関節置換術(以下THA)
を施行することによって,術側下肢の荷重量や重心動揺性が経
時的にどのように変化するのか,また対側の股関節の状態によ
って,どのような違いがあるのかを下肢荷重検査を用いて検討
した.
【方法】
対象は,平成21 年8 月から平成23 年6 月までに当院で
THA を施行した末期の変形性股関節症患者で,下肢荷重検査
を術前より経時的に行った56 例(男性7 例,女性49 例,平均
年齢61.7±11.0 歳)である.なお,対側股関節のX 線学的病
期分類によって,対側が正常および前期・初期股関節症である
群をA群(26 例),進行期・末期股関節症である群をB 群(13
例),また対側に既にTHA が施行されている群をC 群(17
例)の3 群に分けた.検査にはアニマ社製G-620 の下肢荷重計
を用いた.患者に左右のプレート上に軽度開脚となるように両
足で立たせ,静止立位30 秒間で計測した.各々の症例に対し
て,術前・術後1 カ月および術後3 カ月の時期において,手術
側下肢の荷重率(術側への荷重配分:%),総軌跡長(重心点の
移動した全長:cm)および外周面積(重心動揺軌跡の最外郭に
よって囲まれる内側の面積:cm2)を測定し経時的に比較した.
なお,B 群では術後3 ヶ月時にはすでに対側のTHA が行われ
ている症例が多く,検討すべき術後3 ヶ月の症例数は得られな
かった.
【結果】
全症例の手術側の荷重率の平均値は,術前:44.6±7.3%,術
後1 ヶ月:49.1±6.2%,術後3 ヶ月:49.7±4.6%であり,術
前と術後1 ヶ月,術前と術後3 ヶ月の間に有意差を認めた(p
<0.01).総軌跡長の平均値では,術前:41.4±17.2cm,術後
1 ヶ月:45.2±19.3 cm,術後3 ヶ月:38.8±11.8 cmであり,
また外周面積の平均値は術前:1.8±1.2 cm2,術後1 カ月:1.9
±1.1 cm2,術後3 ヶ月:1.7±1.1 cm2 であった.術後3 ヶ月
以降に小さくなる傾向であったが,計測時期による有意差は認
めなかった.
対側の股関節症の病期別では,A 群の荷重率の平均値は,術
前:40.8±6.5%,術後1 ヶ月:46.34±6.3%,術後3 ヶ月:
49.5±4.9%であり,術前と術後1 ヶ月,術前と術後3 ヶ月との
間に有意差を認めた(p<0.01).A 群の総軌跡長の平均値は,
術前:42.5±16.2 cm,術後1 ヶ月:43.0±19.6 cm,術後3 ヶ
月:38.0±10.6 cm であり,A 群の外周面積の平均値は,術
前:1.9±1.1%,術後1 ヶ月:1.8±1.0%,術後3 ヶ月:1.6±
0.9%であった.B 群の荷重率の平均値は,術前:48.5±5.9%,
術後1 ヶ月:53.5±5.5%であり,術前と術後1 ヶ月との間に有
意差を認めた(p<0.05).B 群の総軌跡長の平均値は,術前:
41.7±23.3 cm,術後1 ヶ月:47.5±19.9 cmであり,B群の外
周面積の平均値は,術前:2.0±1.7cm2,術後1 ヶ月:2.0±
1.1 cm2 であった.C 群の荷重率の平均値は,術前:47.4±
6.9%,術後1 ヶ月:48.9±3.8%,術後3 ヶ月:50.0±4.7%で
あり,C 群の総軌跡長の平均値は,術前:39.8±14.0 cm,術
後1 ヶ月:46.7±19.8 cm,術後3 ヶ月:38.0±12.3 cmであり,
C 群の外周面積の平均値は,術前:1.6±0.8 cm2,術後1 カ
月:2.0±1.3 cm2,術後3 ヶ月:1.4±0.8 cm2 であった.
【考察】
全体として,手術側の荷重率は,術後有意に改善し,術後3
ヶ月以降で対側とほぼ均等(50%前後)になることがわかった.
総軌跡長や外周面積では,術後1 ヶ月で増加するが術後3 ヶ月
以降では術前よりも減少しており,有意差はないものの,術後
3 ヵ月以降で重心動揺性も改善する傾向が認められた.
対側股関節の病期分類では,A 群やC 群では前述の全体像と
ほぼ同じ傾向を示したが,対側が進行期?末期のB 群では,術
後1 ヶ月で対側よりも手術側の方により多くの荷重がかかって
おり,重心動揺性の改善もほとんど認めなかった.これは恐ら
く対側の股関節痛が術後も持続しているため,疼痛が軽減した
術側下肢に荷重がかかりやすくなっているためと考えられた.
また,「重心は脚長差の長脚側に移る傾向がみられた」との寺本
らの報告もあり,B 群では術側下肢が長くなる傾向が強いため,
脚延長に伴う脚長差が荷重率を増加させていたのかもしれない
と思われた.
【まとめ】
変形性股関節症に対しTHA を施行することによって,左右
均等な荷重率を獲得できることがわかったが,対側股関節が進
行期?末期の症例の場合やや傾向が異なっていた.また総軌跡
長,外周面積においても有意な変化が認めなかったことより,
今後も症例数を重ねてより長期に検討する必要があると思われ
た.

〔シカゴ〕アイオワ大学カーバー医学部(アイオワ州アイオワシティー)のPeter Cram准教授らは,1991?2008年に人工股関節全置換術またはその後の再置換術を受けたメディケア受給者のデータを分析したところ,この間の患者の入院日数は減少したが,再入院率と高度看護施設への転院率は増加したことが分かったとJAMA(2011; 305: 1560-1567)に発表した。

MT Pro

人工股関節全置換術後の身体機能の回復 文献の系統的総括とメタ分析
抄録No.1109-1
執筆担当:
甲南女子大学
看護リハビリテーション学部
理学療法学科
掲載:2011年9月1日

【抄録】
背景
人工股関節全置換術(THA)を受けた最近の患者は、以前にTHAを受けた患者より若くより活動的な傾向がある。よって、術後の高い身体機能獲得が期待される。それゆえ患者はTHA後の身体機能の回復程度について、より説明を求めるようになってきた。

目的
この研究の目的はTHA後の身体機能の回復についての文献を調査し、身体機能の3つの観点からみた回復の程度を調べることにある。3つの観点は、自覚的身体機能、活動を行うための機能的容量、家庭で行っている日常活動量である。

データ源
文献はMEDLINEとEMBASEデータベースに最初から2009年1月までに含まれているものとした。その参考文献も対象とした。

論文選択基準
前後比較法を用いた前向き研究で、変形性関節症で初めてTHAを受けた患者を対象としているものとした。

文献の抽出と分析
二人の評者が個々に選択基準のチェックを行い、「偏りの危険性」の評価を実施し文献を抽出した。文献は重量効果モデル(random-effects model)を使用してメタ分析を行った。

結果
収集した1,402件の論文中、31件の研究論文が選択基準を満たした。
それらを調査したところ、自覚的身体機能においては、対照群(健常人)と比較して患者は術前の50%以下のところから術後6から8ヶ月で約80%まで回復していた。活動を行うための機能的容量では、患者は術前の70%から術後6から8ヶ月で80%まで回復していた。日常活動量では患者は、術前の80%から術後6ヶ月で84%まで回復していた。

考察
この研究は、私達の知る限り、THA術後の機能回復を3つの観点から初めて調査したものである。
調査した文献のほとんどは、術後8ヶ月の身体機能回復を評価していた。ただ、それ以上の期間を追跡調査したものは、ほとんど無かった。

また、この私達の系統的総括を他の総括と比較するのは困難である。それは、THA術後の身体機能回復を違った観点から調査した系統的総括が見当たらないからである。

限界
術後8ヶ月以上身体機能の回復を調査している研究は少なかった。

結論
術前の状況と比較して、身体機能の3つの観点において、術後の回復がみられた。術後6から8ヶ月で、身体機能は対照群のおおむね80%まで回復していた。

【解説】
人工股関節全置換術(THA)は保存的療法に比べ医療費は係るが、疼痛の除去ないし軽減および身体機能の改善[1.]をもたらす。

THAの術後評価は伝統的に死亡率、手術法、手術技術、生存率、外科医による評価で行われてきた[2.3.]。最近では、術後の健康状況について患者からの報告による評価が増えている。それは、疼痛の軽減度合い、関節機能、QOL、患者満足度などである[4.-6.]。

そして、術後身体機能改善度合の分析は重要で、改善度が低い場合はQOLの低下、能力障害、うつ状態、医療費の増加を引き起こす[7.]。

また、最近のTHAを受ける患者は以前より若い傾向になってきており、術後の高い身体機能回復を求めている[8.]。

この研究では、術後の身体機能回復度合を健常人と比較し調査している。それによりTHAを受ける最近の患者に対して、術後の身体機能の回復見込みを提示できるとしている。

【文献】
1.Rasanen P, Paavolainen P, Sintonen H, et al. Effectiveness of hip or knee replacement surgery in terms of quality-adjusted life years and costs. Acta Orthop. 2007;78:108-115.
2.Ritter MA, Albohm MJ, Keating EM, et al. Life expectancy after total hip arthroplasty. J Arthroplasty. 1998;13:874-875.
3.Berry DJ, Harmsen WS, Cabanela ME, Morrey BF. Twenty-five year survivorship of two thousand consecutive primary Charnley total hip replacements : factors affecting survivorship of acetabular and femoral components. J Bone Joint Surgery Am. 2002; 84:171-177.
4.Jones CA, Beaupre LA, Johnston DW, Suarez-Almazor ME. Total joint arthroplasties: current concepts of patient outcomes after surgery. Rheum Dis Clin North Am. 2007; 33: 71-86.
5.Montin L, Leino-Kilpi H, Suominen T, Lepisto J. A systematic review of empirical studies between 1966 and 2005 of patient outcomes of total hip arthroplasty and related factors. J Clin Nurs. 2008;17:40-45.
6.Ethgen O, Bruyere O, Richy F, et al. Health-related quality of life in total hip and total knee arthroplasty: qualitative and systematic review of the literature. J Bone Joint Surg Am. 2004;86:963-974.
7.Tomey KM, Sowers MR. Assessment of physical functioning: a conceptual model encompassing environmental factors and individual compensation strategies. Phys Ther. 2009;89:705-714.
8.Mancuso CA, Jout J, salvati EA, Sculco TP. Fulfillment of patients’ expectations for total hip arthroplasty. J Bone Joint Surg Am. 2009;91:2073-2078.