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2013年9月10日アーカイブ

2013. 9. 5

Ann Intern Med誌から
関節置換術後の新規抗凝固薬に低分子ヘパリンを上回る利益はあるか
米国で行われたシステマティックレビューの結果


人工股関節全置換術(THR)または人工膝関節全置換術(TKR)後の静脈血栓塞栓症の予防目的で使われる低分子ヘパリン(LMWH)と、近年登場した新しい抗凝固薬の有効性、安全性を比較したところ、症候性深部静脈血栓症の予防において新規抗凝固薬の利益は高いが、出血リスクも高い傾向が見られた。米Duke大学のSoheir S. Adam氏らによるシステマティックレビューの結果で、論文はAnnals of Internal Medicine誌2013年8月20日号に掲載された。

 血栓予防を目的とする抗凝固療法は、THRまたはTKRを受けた患者の静脈血栓塞栓症のリスクを低減するが、大出血リスクを上昇させる可能性がある。したがって、血栓予防効果がより高く、出血リスクはより低い薬剤を選択することが望ましい。

 THRまたはTKRを受けた患者に広く用いられてきたのはLMWH、フォンダパリヌクス、ワルファリンだ。このほかに、未分画ヘパリン、アスピリンが適用されることもある。LMWHの有効性と安全性を示したデータは十分にある。

 近年、新規経口抗凝固薬(直接トロンビン阻害薬、経口第Xa因子阻害薬など)も血栓予防の選択肢となった。著者らは、米退役軍人省の依頼を受け、THRまたはTKRを受けた患者に新規抗凝固薬を適用した場合の利益とリスクを標準的な抗凝固療法と比較するためのシステマティックレビューを行った。

 MEDLINE、EMBASE、コクランシステマティックレビューデータベースに09年1月?13年3月に登録された研究から質の高いシステマティックレビューを探し、THRまたはTKRを受けた患者に対する新規抗凝固薬の血栓予防効果をLMWHと比較した6件のレビューを分析対象とした。新規抗凝固薬とワルファリン、アスピリン、未分画ヘパリンを比較した質の高いレビューは見つからなかった。

 6件中2件は薬剤クラス間の比較(例えば第Xa因子阻害薬とLMWHの比較など)を行っており、4件は個々の薬剤を比較していた。全てのレビューが直接比較を行っており、2件はそれに加えて間接比較も行っていた。5件は同一の定義を用いて大出血に関する分析を実施していた。

 Neumann氏らのシステマティックレビューは、22件のランダム化比較試験(3万2159人を登録)を分析対象とし、第Xa因子阻害薬(アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン、YM150、LY1517717、TAK442、razaxaban、betrixaban)とLMWHを比較していた。エビデンス強度の高い試験では、第Xa因子阻害薬とLMWHで全死因死亡と非致死的肺塞栓症への影響に有意差を認めなかったが、症候性深部静脈血栓症のリスクは、LMWHに比べ第Xa因子阻害薬の方が1000人当たり4人(95%信頼区間3-6)少なかった。オッズ比は0.46(0.30-0.70)で差は有意だった。大出血を報告していた研究のエビデンス強度は中等度だった。第Xa因子阻害薬の方がLMWHより1000人当たり2人(0-4)多く大出血を経験する傾向が見られた(オッズ比1.27、0.98-1.65)。

 第Xa因子阻害薬とLMWHを比較した他の系統的レビューでも、同様の結果が得られた。

 経口直接トロンビン阻害薬のダビガトランとLMWHを比較していたレビューは4件あり、症候性深部静脈血栓症リスク、肺塞栓症リスクはLMWHに比べダビガトランの方が低下傾向を示したが、有意差は見られなかった(エビデンス強度はいずれも低)。大出血のリスクに上昇傾向は見られなかった(エビデンス強度は中等度)。

新規抗凝固薬の直接比較は行われていなかったが、LMWHのエノキサパリンと新規抗凝固薬の比較で得られたデータを利用して間接比較が行われていた。第Xa因子阻害薬間の間接比較では、症候性深部静脈血栓症リスクは、ダビガトランに比べてリバーロキサバンの方が低い(リスク比0.68、0.21-2.23)傾向が見られ、アピキサバンとリバーロキサバンの比較でもリバーロキサバンの方がリスク低下傾向が見られた(0.59、0.26-1.33)。ダビガトランに対するアピキサバンのリスク比は1.16(0.31-4.28)だった。一方、大出血リスクは、アピキサバンに比べてリバーロキサバンの方が高くなる傾向が見られた(リスク比1.59、0.84-3.02)。ダビガトランに対するリバーロキサバンのリスク比は1.37(0.21-2.23)、ダビガトランに対するアピキサバンのリスク比は1.16(0.31-4.28)で、いずれもリスク上昇傾向を示した。間接比較のエビデンス強度は全て低かった。

 新規抗凝固薬はTHRとTKRを受けた患者の血栓予防において有効だが、LMWHを上回る臨床上の利益はわずかで、大出血リスクの上昇により相殺されるレベルだった。著者らは、新規抗凝固薬は選択肢の一つになるが、出血リスクが上昇している患者への適用には注意が必要だと述べている。