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股関節固定術?診療ステートメント

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【整形外科学会診療ガイドラインより】


Research Question 8
変形性股関節症に対する股関節固定術の治療効果は

推奨
Grade C (※)股関節固定術は,関節温存術または人工股関節全置換術が適応とならない若年で片側性の末期変形性股関節症の疼痛緩和に有効な術式である.


解説

若年者で末期の変形性股関節症(股関節症)に対し,関節温存術の適応がなく,また人工股関節全置換術(THA)ではその耐用性に問題があると考えられる場合には股関節固定術が適応となり得る.THAの長期成績が向上している現在,適応症例は減少しているのが現状であるが,化膿性股関節炎の既往のある症例や10?20歳代の関節温存が困難な症例に対しては重要な選択肢の1つである.また,長期経過後にTHAへの移行も可能である.反対側の股関節や隣接腰椎または膝関節に変性変化を有する場合には,経過中にその病状を悪化させる場合があるので,適応になりにくい.


サイエンティフィックステートメント

?罹患股関節の良好な除痛効果が得られ,手術に対する満足度は高いとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
?就職率(復職も含めて)は高いとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
?可動域制限のために日常生活動作に支障をきたす場合があるとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
?長期例では隣接関節(膝,腰椎,反対側股)に支障をきたすことがあるとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).
?THAへの移行が可能であるとする中等度のエビデンスがある(EV level-IV).


エビデンス

?股関節固定術施行例40関節(手術時平均年齢32歳,先天性股関節脱臼21関節,感染症9関節,外傷8関節,一次性股関節症2関節)の平均経過観察期間26年の報告.固定肢位は20?40°屈曲,内外転および内旋外旋中間位でほぼ全例が固定されていた.満足度調査では38関節は満足,2関節不満足.THAへの移行を希望する例はなかった.術後平均1年で肉体労働を含む術前の仕事に復職していた.26例(65%)で腰痛の既往があり,そのうち11例で何らかの治療を受けた.14関節で膝痛の既往があり,同側に9例,反対側に2例,両側に3例で疼痛を認めた.35例(87.5%)は靴下着脱,正座,階段昇降,性行為などの日常生活に何らかの不便を有していた(HF11798, EV level-IV).
?股関節固定施行例10関節(平均手術時年齢34.4歳,大腿骨頭壊死例3関節,変形性股関節症5関節,外傷性変形性股関節症1関節,1関節は銃創後の自然強直)の術後平均8.5年における調査.疼痛に関する患者満足度は70%が優?良,30%が可,機能では100%が優?良,全体的な満足度は30%がとても満足,70%が中等度の満足であった.反対側の股関節痛は0%,同側の膝痛は20%,腰痛は40%で認めた(HF11802, EV level-IV).
?股関節固定術施行例19関節(平均手術時年齢33歳,二次性変形性股関節症16関節,一次性変形性股関節症2関節,表面置換型人工股関節の破綻例1関節)の報告.固定肢位は平均屈曲22°内転7°外旋10°であった.1関節を除き,18関節で満足な結果であり,平均脚長差は2cmであった(HF11789, EV level-IV).
?股関節固定後のTHAへの移行例41関節,平均経過観察期間7年における報告.固定術の平均手術時年齢は32歳,THA移行の平均手術時年齢は53歳であり,移行の主な理由は腰痛と膝痛であった.腰痛の軽快率は80%,膝痛の軽快率は66%であった.合併症として脱臼(5%),感染(7%)を認めた(HF11940, EV level-IV).
?股関節固定術施行28関節(平均手術時年齢25歳)の術後平均37年の報告.固定後平均23年で57%に同側の膝関節痛,平均25年で61%に腰痛,平均2年で25%に反対側の股関節痛を認めた.27例は仕事に従事しており,70%で1マイルの歩行が可能で,2時間の座位の保持が可能であった.21%で膝痛または腰痛のためにTHAに移行した(HF11939, EV level-IV).
?股関節固定術施行53例(平均手術時年齢14歳)の術後平均38年の報告.78%の症例で固定術に対して満足しており,全員職に就いていた.45%で同側の膝関節痛,57%で腰痛,17%で反対側の股関節痛を認めた.13%の症例で膝痛または腰痛のためにTHAに移行した(HF11938, EV level-IV).


文献


1) HF11798 Sofue M, Kono S, Kawaji W, Homma M. Long term results of arthrodesis for severe osteoarthritis of the hip in young adults. Int Orthop. 1989;13(2):129-33.
2) HF11802 Roberts CS, Fetto JF. Functional outcome of hip fusion in the young patient. Follow-up study of 10 patients. J Arthroplasty. 1990;5(1):89-96.
3) HF11789 Duncan CP, Spangehl M, Beauchamp C, McGraw R. Hip arthrodesis: an important option for advanced disease in the young adult. Can J Surg. 1995;38 Suppl 1:S39-45.
4) HF11940 Kilgus DJ, Amstutz HC, Wolgin MA, Dorey FJ. Joint replacement for ankylosed hips. J Bone Joint Surg Am. 1990;72(1):45-54.
5) HF11939 Callaghan JJ, Brand RA, Pedersen DR. Hip arthrodesis. A long-term follow-up. J Bone Joint Surg Am. 1985;67(9):1328-35.
6) HF11938 Sponseller PD, McBeath AA, Perpich M. Hip arthrodesis in young patients. A long-term follow-up study. J Bone Joint Surg Am. 1984;66(6):853-9.


診療ステートメントの推奨グレードとその意味

A 標準的な診療行為として行うことを強く推奨できる
B 標準的な診療行為として行うことを推奨できる
C 標準的な診療行為として行うことを推奨できない
D 標準的な診療行為として行うべきでない
I エビデンスと専門家の意見が乖離し、標準的な診療行為として明確に推奨しにくい
1. 専門家のコンセンサスは得られているが、エビデンスが不足する
2. エビデンスはあるが、専門家の評価は高くない

つまり、股関節に対する固定術という治療法は「C」「標準的な診療行為として行うことを推奨できない 」ということになるのですね。ほかの治療法(温存術や人工関節)が適応にならないときだけの、やむをえない方法ということでしょうか。
受けた身としては、微妙ですけれども(笑)

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