モンスターカレンダー

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術直後からしばらくの間

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「終わったからねー!」

必要以上に大きな声で意識が現実に引き戻された。
目覚めた先は楽園でも天国でもない。恐ろしいほどの超現実の世界。どちらかというと地獄の方に近いかな・・・
ものすごく憂鬱な瞬間だ。

終わったからといって全てスッキリ!ではない。
終わったのは「手術に関わった先生やスタッフの仕事」であって、私の術後はこれから始まるのだ。

目も開けられないままあちこちからいろんな指示の声がかかり、いろんな手が伸びて私の体にさまざまなものを装着していき、バタバタしたまま病室に到着したらしい雰囲気だ。
夫が呼ばれて手術説明を聞きに行った(ようだ)。子どもたちが無言で恐る恐る私の手を握った(ようだ)。
消え入るような小さな声で
「おかあさん・・・」
手術に搬入されたときの私の顔と余りに違う真っ青で冷たい生気のない顔にどうも恐れをなして声がかけられなかったらしい。
いつの間にか主治医がそばに来ていて
「お母さん頑張ったよ」
と子どもたちに声をかける。
先生?冗談言っちゃいけないよ?頑張ったのは先生方であって、私の頑張りは「今」から始まるんです・・・

はっきりしない意識のまま時間の経過もわからず、おびえた(笑)子どもたちは父に連れて帰られた。
泣きそうな小さな声で「頑張ってな」と。
返事もできずに手だけ握り返した。

息が・・・苦しい・・・
全身麻酔は2回経験がある。術後は深呼吸して、気持ちを落ち着けていればだんだんと楽になっていく(はずだった)
なのに息をしてもしてもしても、まるで気管から肺にかけて真綿を詰め込まれているような苦しさ。
腕を持ち上げたり、首を左右に振るだけでも力を振り絞るようなエネルギーが要る。なんなんだぁ??

貯血が700mlしか無かったことで、日赤の血液を輸血すると言ってた主治医。
出血が多くて約2000mlもあったのに、なんと!輸血なしで自己血を戻しただけだという・・・
術後のぼ?っとした頭でも簡単に計算できた。
2000-700=1300・・・血が1300mlも足りんーっ!!?
前回、左股関節固定の時、若かった(26歳)こともあって輸血せずに手術したことで術後ものすごくしんどかった・・・それでも出血量は3桁に留まっていた。だから今回は日赤の血液でもかまわないからバンバン入れて欲しい旨伝えたあったはずなのに、主治医は親切心で(?)今回も輸血なしで済ませてくれたようだ。

苦しいはずだ。

術直後のヘモグロビンは8台。左手には術中に何度採血したのか血管に沿って数えられないほど針穴が残っている。そのため術直後の採血は、左のソケイ部から若い医師が動脈血を採っていた。
その後一時的にヘモグロビンは7台まで下がったが、普段は13?14くらいある私にとってその値は約半分。貧血恐るべし。私は貧血を甘く見ていた。その後の苦しみを体感するまでは・・・

38度?39度くらいの発熱がずっと続いていた。痛みは硬膜外チューブからの鎮痛剤でコントロールされていたけれど、担当看護師さんにすればこの熱を見過ごすわけにはいかなかったようだ。
ただでさえ全身倦怠感・脱力感に常時包まれている身としては、熱が出てるくらいはさほど大きな問題に感じない。というか、誰にも何もかまってもらいたくない、喋りかけてもらいたくないほどのしんどさ。
1時間ごとに体温と血圧を測定しに来るが、血圧が低すぎて解熱用の座薬が使いづらい状況であったらしい・・・。それでも時々ボルタレン座薬(12.5mg)が使われ、その量の少なさから中途半端に熱が少しだけ下がり、発汗で余計に気分が悪い・・・という私にとっては少々迷惑な結果が招かれる。
私が座薬は要りませんというと、今度はわきの下に氷を持ってきてはさんでいく。看護師さんにすれば発熱という問題点に対して何らかの対応策を講じた、という事実が必要なのだろう。

とにかく出入りが多いのと体の余りの苦しさに、最初の二晩はほとんど眠ることもできないままだった。
体が自由になった今だからこうして振り返られるけど、苦しいだけでなく楽な姿勢をとることもできない拘束感・・・あぁ、死ぬ前はきっとこんな感じに苦しいんだろうな、と。今までの私の生き方に問題があったのかしらとか、わけわかんないことばっかりが頭をめぐってた。そう、考えるなんてことはできない、ただ頭をめぐってた。

「お世話になりました・・・」
気持ちのこもってない義務感だけのこの言葉を何回吐いただろう。吐いた・・・息をするついでに
仕方なく言葉にしたという感じ。
吐いた言葉は相手に伝わる前に病室の空気に紛れて消えていくだけなのに。

手術なんかするんじゃなかった・・・心の中で何度も泣いた。


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